イミ・クラヴマガ・ハガナ・アツミのボアズ・ハガイ氏インタビュー

イミ・クラヴマガ・ハガナ・アツミ ボアズ・ハガイ氏
クラヴマガとは? 格闘技の目的とは?

※本頁は、2014年末に発売された『ドラゴン魂 創刊号』に収録されたものをweb用に再編集したものとなっています。

居合の和田先生の紹介でイミ・クラヴマガ・ハガナ・アツミのボアズ・ハガイさんが編集部にやってきました。私とボアズさんのクラヴマガについての質疑応答です。

現役引退してからもう20年以上たつが、よく思うのは、強さってなんだろうという事ですね。何をもって強いとするのか? 俺は若い時試合でガンガン勝って優勝することでその強さを手に入れようとしていたんだが、果たしてそうなのか? そう思うようになって来たのは、中年以降になって試合幻想から覚めてきたからなのかな?

以下の記事は格闘競技をやっている人含めて考えてもらいたいがために、ドラゴン魂に掲載したものです。概念的な問題を含んでいるので、競技格闘技者には「はぁ?」と思われても仕方がないけどね!
聞き手 川保天骨(ドラゴン魂)

本当の護身ってなんですか?

川保

15年ぐらい前かもしれないんですが、違う雑誌でクラヴマガ取材してた時、その先生が「クラヴマガは一直線で一気にある地点まで昇る。武道は修行とかを通じて心を磨きながら螺旋状に昇るんです」って聞いたんです。なるほどって思ったんですが。

ボアズ

イミ・クラヴマガ・ハガナ・アツミ(以下クラヴマガ)は護身術。スポーツではないです。基本的にどの武道でも作法、型、組み手と練習が分解されてて、スポーツとして成り立っている部分が多い。そして「体を鍛える」という面と「遊ぶ」という面がありますね。作法から始まり型を覚えて、体を鍛えて、試合とかで実戦の体験をする。これが現在、武道や格闘技をやるとか習う流れですね。護身術を習得するという目的はそれほどないです。

クラヴマガには試合がないです。組み手も少ない。その余裕はないんですよ。練習だけ。稽古だけ。目的は最初から最後まで身を護ることだから。

かっこいい技…、空手は試し割とかあるでしょ。そういうことしない。逆に私は空手の方が強いって思うんですよ。空手とか柔道の方が強い。クラヴマガは自分を試したり、チャレンジすることはそんなにない。目的がとにかく自分の身を護ることだから。そのために必要な事は結局、考える事。本を読んだり、物を書いたりとか………。

川保

相手との相対稽古もないんですか?

ボアズ

稽古だけなの。空手は組み手、スパーリングとかの稽古が多い。護身に関してはあまり稽古しないでしょ。クラヴマガは闘いだけ。「この時、この状態でこれやる」「この間合い、この状況でこうする」とか流動的です。型は無いんです。スポーツは走ったりとか腕立てとか腹筋やって体鍛えて強くなって試合に勝たなくてはならない。護身術の場合はそんなことないです。腕掴まれてる場合は「イチ、ニ!」で何とかしなくてはならない。もちろん他の技もあるんですけど、とにかくその場で決めなきゃいけないの。1秒で判断する。1秒で決める。その1秒で決めたことが次の1秒になるから………。判断を早くする。

それから「自分はどこにいるのか」「どのぐらい逃げられるか」とか「その場所を離れられるか」「どのぐらい相手に怪我させなきゃいけないのか」と諸々考えなきゃいけないの。これがあくまでも護身術。それから例えば私がバー、喫茶店に入った時にその人間見て、その人が誰かと話している場合、彼はもう一人じゃない。もし私と彼に何かが起こった時、彼には助ける仲間がいるという事でしょ。闘う人数も考えなくてはならないの。そういう事全部含めて護身術。

川保

状況を見て頭の中で全部把握してるという事ですね。

ボアズ

そう。誰が周りにいるか見なきゃいけない。

川保

たとえば喫茶店だと色々な人がいますよね。入ってくる人間もいるし。誰が入ってくるかわからない。

ボアズ

どこに座った方がいいとか、座る方向がある。

川保

私は店に入って座る場合、まず店内で変な人間がいないかチェックして、座るのは入口に向かって座りますね。そして誰かが入ってくる度にどんな奴かチェックしますね。精神異常者、テロリスト、暗殺者が入ってくるかもしれないですもん。これは士心館の館長、林悦道先生と喫茶店で話してる時聞いて、それからです。

自分の身を護る事が一番重要

ボアズ

私達はあくまでも日本の武道みたいになりたいんですけど、クラヴマガにはそういう武道の歴史がなく、生き残る技があるだけなんです。クラヴマガにプライドはない。日本人はすごいプライドがあるんですよ。日本人はすごく負けるの嫌い。

川保

でもクラヴマガの人も負けるの嫌いでしょ?

ボアズ

クラヴマガは負けないように頑張る。負けないように生活する。たとえば悪い奴が来たら、そこにいない方がいい。もし攻撃したら勝てるように攻撃する。別に相手倒すことに興味はないんです。

川保

そういう考え方はイスラエルという国の成り立ちや文化も関係あるんでしょうか?

ボアズ

イスラエル人はたくさん苦労して、イスラエルという場所、国を作ったんですよ。だから二度とイスラエル人を殺させないようなメソッドを作らなければならなかったんです。

川保

クラヴマガは完全に自分達を護る事、それだけに特化していると。

ボアズ

相手と競争する時間がないんです。自分より強い相手と競争するじゃなくて、私はこの場合何ができるかが重要。鉄砲を叩き落とす、その鉄砲を使う。棒があるんだったらそれを使う。どういう風に座るか。その座ってる椅子を使うか。お茶が目の前にある。そのお茶を使うか。どういう風に身を護るかが問題。相手じゃないの、相手は気にしない。

川保

徹底してますね~。それじゃあ護身術で一番いいのはその場から逃げるってことですか?

ボアズ

逃げない。逃げると意味ない。相手を見て、変な人がいっぱい出てくるなら逃げた方がいいけど、相手を読む。相手を行かせるの。相手が威張ってる人だとしたら……、すごい難しいですよ。

川保

合気道の塩田剛三先生が、自分を殺しに来た人と仲良くなるできるぐらいの人間になれって………。

ボアズ

私達、仲良しは必要ない。ただ相手を見るだけ。

川保

人物を見てあれだなって思ったら謝ったり?

ボアズ

謝ってもしかたない。何もならない。茶道ってあるでしょ。茶道って護身術でしょ。お茶を作る間に相手を見てる。お茶は相手を読む時間。私はお茶を作る完璧な時間で、相手を読むの。お茶はお客さんを楽しませるだけじゃなくて、相手の動き、表情、しぐさ、着装、もっと言うとお金あるかとか全部見る。日本の文化は相手を見る非常に武道的な文化なんですよ。クラヴマガも同じ。ただそういう歴史はない。尊敬とかもない。道場で上座はない。キダだけ。

川保

「キダ」っていうのはヘブライ語で「礼」ってことですか?

ボアズ

そう。私達は日本人になりたい、はっきり言って。日本の整理整頓、たとえば正座などは私達にとってはすごい立派なことです。5分座る人、10分座る人はすごい。日本は武道に対して全部持ってる。私達は持ってない………。クラヴマガの魅力はシンプルなこと。日本の武道ではそれが無い。クラヴマガはすぐ覚えられる。すぐやっつけられる。すぐ強くなれる。誰でもできる。そしてもちろんシンプル、簡単よ。だけど、浅いというわけではない。イミ先生はそういう風に作ったの。今は浅い。

スポーツではない護身術の世界

川保

イミ先生が最初作った段階のクラヴマガの本当の姿から変化して今はスポーツ化しちゃってるってことですかね?

ボアズ

今、クラヴマガは私のやってた時代の技とは変わってきてるんです。練習しやすくスポーツっぽくなってきてる。他の格闘技と共通する部分が出てきたの。今のクラヴマガやってる人とキックボクシングやってる人がリングで闘う事できるよ。私の生徒はリングに入ることはできないです。金的とか眼に指入れたりとか髪引っ張ったりとか、咽喉やっつけたりとかするから。

川保

何でもありですね。自分が生き残るということを前提にあるものだから、試合に出て勝とうってことじゃないってことですね。今のクラヴマガは試合に出ていくような、スポーツっぽいものに何故変わったんですか?

ボアズ

お金です。生徒が欲しいから。

川保

クラヴマガは現在かなり有名なんですけど、そういう風になっているの、いいことじゃないと思いますか?

ボアズ

私はいいと思う。商売と武道。商売はものを売る。武道は技を売る。クラヴマガは元々は商売じゃなかったんですよ。今は完全に商売。

イミ先生の作った『イミ・クラヴマガ・ハガナ・アツミ』の教則本を手に護身術を語るボアズさん。


イミ・クラヴマガでは柔道着を身につけて稽古するそうです。


イミ先生の目指していたものは日本の武術に近いものでした。


ボアズ・ハガイ(Boaz Hagay、1964年 – )はイスラエルの武道家で、合気道三段、ブカン・クラヴ・マガの三段であり、クラヴマガのインストラクターを務める。

来歴

現在は省略され単にクラヴマガ(Krav Maga)と呼ばれる元となったイスラエル由来の護身術の Krav maga ve-Hagana ‘atzmit(クラブマガ護身術)に14歳で入門し、創始者イミ・リヒテンフェルト(Imi Lichtenfeld)の一番弟子であり、後にブカン([Bukan school of Krav maga])を創設したヤロン・リヒテンシュタイン(Yaron Lichtenshtein)に師事すると共にイミ・リヒテンフェルト(Imi Lichtenfeld)からも直接の指導を受けた。

師事していたヤロン、イミに日本の武道を学ぶ目的で訪日する進言を受け、1988年来日し、以来剣道と合気道を学ぶ傍ら活動ベースを日本に置き日本人、イスラエル人達に護身術の指導を行っている。 特に合気道の技術と精神に惹かれ現在も合気会本部道場にて稽古を続けている。合気道三段(合気会)。

現在は主に東京エリアで精力的に護身術の指導を行っているが、クラヴマガ・ジャパンの松元國士が「クラヴ・マガ」を商標登録し、クラヴ・マガ(Krav Maga)という名称での護身術の指導を禁止されたため、「K.M.」や「Bukan K.M」等の名称を使って指導を行ってきた。2010年よりImi Krav Maga ve Hagana Astsmit(Imiクラヴマガ護身術)という名称にて指導を行っている。

●イミ・クラブマガ護身術/ブカン・クラヴマガの特徴

ボアズ・ハガイが指導するイミ・クラブマガ護身術/ブカン・クラヴマガの特徴は、技術的には、イミ・リヒテンフェルドが作った原型のクラヴ・マガの様式を色濃く残している。また、ボアズ・ハガイが合気道三段であることもあり、技術体系は古武術的な雰囲気を持っている。 また、禅と武道の教えを重視しており、日本の武道家である植芝盛平、嘉納治五郎、船越義珍などに武道精神を見いだしている。 他の特徴としては、クラヴ・マガを指導するときには、ヘブライ語を用いるべきである、という考えを持っている。これは、柔道などで「一本」や「技あり」がそのまま国際的に流通していることと、似たような意味合いとしている。

●クラヴ・マガとは?

名前中、マガ(מגע ‎)は「接近」「接触」、クラヴ(קרב ‎)は「戦闘」を意味する。このため、直訳するとかえって混乱を招きかねないので、ヘブライ語のままクラヴ・マガと呼ばれる。なおもともとはカパップ(ヘブライ語:קפ”פ Kapap Krav Panim El Panimの省略。白兵戦の意)と呼ばれていた。

イスラエルでは、イスラエル国防軍や警察、イスラエル諜報特務庁で採用されている。またイスラエル国外でも、CIA、FBI、スカイマーシャル、SWAT、GIGN、や多くの国の警察が導入している。

1964年に軍を退職した創設者が一般市民への指導を始めたため、イスラエルでは、国立学校の指導要領に加え、ウィンゲート・インスティテュートと呼ばれる体育学校や、学生を指導する教員にも指導されている。また、民間向けの指導はイスラエルで学んだトレーナーにより世界各地で行われている。