『オルタナエンターテイメント』代表 川保天骨
昨年末に発売された『ドラゴン魂 創刊号』 ……「ドラゴン魂とは何か?」
川保天骨(かわほ てんこつ)
実名 多田英史(ただひでし)
1970年生まれ。 福岡県北九州市出身。東京・練馬区在住。大東文化大学卒業。写真家、雑誌編集者、映像プロデューサー。上京と同時に大道塾東京総本部に入門。東孝に師事。90年北斗旗無差別5位入賞、その後93年北斗旗中量級優勝。翌94年同階級準優勝。95年引退。93年、撮影スタジオアシスタント勤務を経て編集プロダクション・RUSHに入社。ラッシャーみよしに師事。スタッフカメラマンとして数々のエロ本、サブカル本、格闘技雑誌の撮影、編集をこなし、入社6年後に独立。株式会社ギョクモンエンターテイメントを設立。多くの映像レーベルや雑誌の立ち上げに関わる。現在は株式会社オルタナエンターテイメントに社名変更し、映像、出版、ウェブサイト運営などのプロデュース業を主に行う。柔道2段、居合道3段、空道2段、合気道4級。
主な著書に『ムショメシ』(三才ブックス)『ドラゴンスピリッツ』(朝日新聞出版)『ヒロイン危機一髪』(大洋書房)『ペキンパー』(オルタナパブリッシング)など。
※本コラムは、昨年末に発売された『ドラゴン魂 創刊号』のまえがき部をweb用に編集したものとなっています。
オッサンが、動き始めた!
手前味噌で申し訳ないが、実はこの4年間、俺は『ドラゴン魂』にかかりっきりになっていた。齢40代に突入したある日、自らを映す鏡の前で俺は茫然としたのだ。かつて修練の証として誇らしげに隆起を湛えた筋肉の美はすでになく、分厚い脂肪と張りを失った醜い皮膚に覆われた醜悪で不細工なオッサンを見つけた時の衝撃を想像して頂きたい。俺は『ドラゴンスピリッツ』(朝日新聞出版2011年刊)というムックを以前制作したことがあったが、このムックをリニューアルして、あらゆるものにチャレンジする挑戦型実験マガジンを作ろうとする着想はその衝撃から出たと言っていい。己自身を実験台にして、不細工なオッサンを再度、青春の渦中にたたき込んでしまえ。そこには、俺自身をかっこいいオッサン、惚れ惚れするようなストイックなオッサンにしてしまえ! という思惑もあったと告白しておこう。
俺は制作に取り掛かろうとしたが、まずその挑戦するマガジンに哲学を与えなくてはならなかった。その哲学は俺というフィルターを通してこの世に現出するのだ。リニューアル1号目の表紙は故に梶原一騎であり、中身は一人の男としてあらゆるものに挑戦する俺なのだ。そういうわけで、俺は4年前に肉体を鍛える事、そして武道、武術の稽古を復活させた。29歳で独立して以来、社会の荒波にもまれ、理想とは正反対の金! 金! 金! の世の中に投げ出された十年のブランクは予想以上に重症だった。自分なりに少しずつ鍛えて、精神的なリバウンドを繰り返しながら、なんとか取材に耐えられる身体になった今年に入って、俺はようやく取材を始めたのだ!
男はどんな事があってもどうにかしろよ!
まあ、そういうわけで、この本を作ろうとした着想はそんなもんだけど、ここからの話は諸君も関係あるからさ、ちょっと付き合ってくれや~。
40過ぎて、いい年こいて、もう若者ではなく、明らかに中年になった身の上で色々考えるようになってきたのは、俺はいつか死ぬという事だ。もちろん、読者諸君! 君たちも死ぬ。何もかも死んでしまう。死ぬというのは、もうこの世に己が居ないという事だ。今、刻々とその死に向かって爆進している俺と君だ。今日死ぬかも知れん! 明日死ぬかも知れん! でもねぇ、俺はただでは死なんぞ。最後の最後までもがいて、地べた這いずりまわって、ドロ水飲んで、全身がボロボロになって反吐吐いても、この世に決定的なキズを付けてやる。すべての野望、すべての欲望にバカ正直に挑んでやる。それが男じゃなかとか!
男って何だ?! 男っていうのは、どんな状況に陥っても、どうにかこうにかして突破するのが男だよ。冷蔵庫が壊れた、ドアが開かない、不良にからまれた、マフィアに監禁された! 警察に逮捕された! まあいい、色々あるよ。でも男ならどうにかしろ! よくいるんだよ、不測の事態が起こって、そのままフリーズしてるのが。パソコン壊れて、俺が外出先から帰ってくるまでその前でジーッと座ってる奴が。「どうしたんだ? お前、何してるんだ?」「パソコンが壊れて動かないんです」俺がおもむろにパソコンを引っ張り出して正拳食らわしたら一発で動き始めた。「お前、なんで、座ってるだけなんや?」「いや、パソコンに詳しくないので……」昔ならここでそいつの顔面を同じように正拳で殴ってるところだが、今はパワハラとかで訴えられるからな。「お前、このパソコンが5分後までに動かないとお前と、お前の家族全部死ぬとしても、そこにじっと座ってるのかよ! このクソ野郎!」「………はぁ?」「お前、そのパソコン、ひっ繰り返したり、たたいたり、ゆすったり、考えられるありとあらゆることなんでやらない! このキチガイ野郎!」と、まあ、こんな感じになるのだ。必死にもがけよ。これが男だろ。野生の動物として男を剥き出せよ! とまあ、いままで、30代の頃まではこういう感じだったんだが、やっぱり、40代過ぎて中年の領域に達してそんな乱暴な物言いをしていたら誰も相手してくれなくなるよね。気をつけま~す。でも考え方は変わらないんですよ。
死を賭けて向かってくる人間に果たして勝てるだろうか?
まあ、これは男だけじゃなくて女にもあるけど、世の中に出て生きていくというのは否応なしに色々な矛盾や理不尽にさらされるわけです。そういう場合どうすればいいかというと、そりゃー闘わないと! 『ドラゴン魂』は喧嘩を勧めてはないよ。でもね、降りかかってくる火の粉は払わなければならないよ。闘うのは実際に肉体で闘うだけじゃないよ。法律で闘ったり、心で闘ったり、時には金で闘う事もあるよ。闘うっていうのはその人の精神が大きく関係するよ。闘うのは苦しいし、怖いし、痛いし、どんな事が起こるか分らなくて不安だし。でも闘う。闘うのは勝つためにやるんだよ。誰も負けるためにやらないよ。勝つためにどうするか。それを考えるのが男じゃないか。そのために常に心を、精神を鍛えていこうというのが『ドラゴン魂』の指針だよ。技術じゃないよ。心だよ。
俺は大道塾の試合に出てた頃、怖くて怖くて、もう1週間前から神経性のゲリになって、夜も怖くて寝れなくて、前日は「ああ~、明日、大地震が起こって、中止にならないかな~」とか考えたし、もう試合場の舞台の階段最後の1段上るまで逃げようとしてるんだよ。それぐらい人と殴り合う、蹴り合うというのは怖いことだよ。ただ、「はじめ!」という審判の掛け声と共にもう怖いとかそういうのはなくなって、身体が無意識に動いてる。「ノックアウトされて、ウンコ漏らしたりしたらどうしよう」とか「これで負けたらまた1年間苦しい稽古続けるのか~」とかそれまで頭に去来していた色々な思いなんか全部ぶっ飛んじゃってるんよね。元々考えすぎのタイプなのね。これは他の人は知らないけど、俺に限っては試合前にどんだけ稽古しても、どんだけスパーリングしていても、同じでした。それで、今思うのは、闘うっていうのはそういう自分の抱える恐怖を乗り越えて、必死になる事じゃないかと。これはまさに黒崎健時先生も言ってらっしゃるが、人間の精神の極限の所に行くというのが本質じゃないかと。
本誌の試し切りの頁でも書いたが、先日、真剣を買って自分の手に持って振ってみて、まざまざと感じたのは、まさに“恐怖”だ。『昔の人は、こんなものを持って斬り合いをしていたのか!』剣で闘うというのは確かに技術的な側面もあるのだろうが、どんなに技術を持っていようが、死を掛けて向かってくる人間に果たして勝てるだろうか? 『肉を切らせて骨を断つ』なんて簡単に言うが、はたして人間にそんな事できるのか?
「キリムスブ カタナノシタコソ ジゴクナレ ミヲステテコソ ウカブセモアレ」柳生石舟斎『截相口伝書』に書かれている有名な言葉だが、俺にその勇気があるのか? 勝負の切れ目なんぞはほんの数センチ、数ミリ、数秒の話で、そこに死ねるかという事だ。若い頃は試合に出て、色々な事を学んだが、今この年になって、実際に社会に出て闘いに及んだ時、俺は身を捨てられるのか? 君はどうだ?!
男は闘うところに意味があるのよ!
男のダイナミズムって言うのは、そういう所にあるんじゃないか? パッと命をかけられる潔さよ! 強くなろうとして格闘技、武道、武術やるのもいいよ。学ぶべきものはたくさんあるよ。でも、本質は技術じゃないんじゃないかなという気がしてならない。もちろん、俺は大道塾でやってきた自分の稽古は、社会に出た今でも役に立ってる。それは空手の技術どうのこうのではなく、何か目標や目的を達成するためのノウハウだ。まずは基本を身体に染み込ませて、試合に向けて自分なりに稽古する。試合に出て勝った、負けたという経験をする。それを反省、検証して稽古にフィードバックする。再び試合に出る。そういう経験をずっとやってきたわけで、これはまさにビジネスと同じじゃないか! もしかしたら恋愛も同じ法則だ! 成功するまで検証を続けて実証していく。もちろん運もある。でも、運を呼び寄せるのも実力だろ! いつか勝つよ。
ただ、今となってはさらに上の段階。勝った負けたではなく、もう一つ上の段階に俺は到達するために日々研究をしているんだよ。どうやったら闘わないか、どうやったら制御できるか? というのもあるし、人の心をパッと掴むこと。人を惹きつけること。自分の中に起こる得る感情を把握すること。危険を察知して回避すること。そういう事もこれから『ドラゴン魂』は関係していこうと思う。なので、本誌は武道や格闘技の事は出てくるが、技術解説や試合解説などは一切出てきません。そういうのはインターネットとか他の本で読みなさい。これからこの『ドラゴン魂』は本だけではなくて色々なメディアを駆使して、とにかくやれるまでやるからね。倒れる時は前のめりだからね!