士道館の添野義二館長の念願がついに現実化しようとしている。伊豆にある大室山。山全体が緑に覆われた火山だが、この麓に士道館の『大室山一騎道場』がある。
一騎道場の『一騎』とはもちろん梶原一騎の『一騎』。ここは士道館の道場生のみならず、梶原一騎ファン、オールド極真のファンにとっては聖地として知られる場所なのだ。添野館長と梶原一騎の関係は『ドラゴン魂』に詳しく書いているのでそちらを読んでいただくとして、この道場の前には梶原一騎の顕彰碑があったり、『四角いジャングル』と名付けられた屋外リングがったりしてリアルに梶原ワールドが展開されているのだが、添野館長は更にこの付近の土地を購入し、『士道』を持ったものが集う場所を作ろうとしているのだ。名付けて『士道の里(しどうのさと)』。
「天骨くん、今度の日曜日、石運ぶから来なよ~。帰りは温泉入って帰ればいいよ~」という電話を添野館長から頂いた。大道塾総本部引越し祝をしている最中だった。「石運ぶ」という意味がその時はよく分からなかったが「押忍!了解いたしました。参上いたします!」こういう場合、意味など考えず条件反射的に『押忍』という返事をしないと空手家ではないのだ!正直言うと「温泉入る」というのに惹かれたというのもありますけどね。
ここで記念撮影するのは基本でしょう!
道路から見るとめちゃくちゃ目立ってます!
さて、当日現場に着いたのが午前10時。すでに道場下のリング脇の広場に館長を含む皆さんがいた。傍らで大型のダンプやシャベルカーが動いている。
「天骨くん、よく来たね。みんな~、これが奇人変人一号の天骨くんです。はじめての人はよろしくしてね」添野館長は俺を人に紹介するときは「奇人変人一号」という前置きをする。時々ストレートに「変態」と言ったりもするので、その場にいる皆は「え?」みたいな顔で俺を見るのだ。だいぶ慣れてきましたけどね。
館長は背中に虎の刺繍がある格好いい空手衣+地下足袋姿。屈強な道場生が5人ほどいて皆作業着姿。シャベルカーが穴をほっているのを見て「あ、そうか、今日は工事の日なのか~」とようやく悟る俺だった。「道場の玄関に地下足袋あるから貸してやるよ~」と添野館長。「はい。今日は私は何をすればいいんですか?」「あのね、石を運んだり、砂利を敷いたりするから手伝ってね」「はい了解しました」俺をその広場に点在する石を目視した。「石運ぶ」の意味がようやく分かった瞬間だ。「これは人力ではとても無理だな。それぞれ500キロ以上ある大岩石だ」地下足袋履いてとりあえず様子見する。
とりあえず、点在する岩石を添野館長の支持に従ってシャベルカーで移動させていく作業が始まった。こういう工事現場は日常で道すがら見たりすることはあるけど、当事者として目撃するのは初めての俺だ。見る見るうちに手際よく岩石が持ち上げられて移動していく様はそれはもう驚き。これは闇雲に持ち上げたり移動できるようなものではなく、岩石の重さを考えて、吊り下げた時のシャベルカーのバランスや移動を決定していくのだが、まさに武術的な思考と操作の原理がここにあるなと俺は感じた。どういう状況や環境でも武術的な思考が当てはまるんですね。
圧巻は最後の微調整。道場生4人がかりで体当たり的な感じで石を動かしているシーンは男の中の男たちの世界、『リポビタンD』の「ファイト!イッパツ!」CMを見ているようだった。
午前中はそんな感じで石の移動で終わり、午後は砂利を敷き詰める作業。それなら俺も出来るということでダンプで運び込まれた砂利をシャベルで運びを始めた。
学生時代、様々なアルバイトをしてきたが、シャベルで穴を掘ったりする土木建築の仕事は今までやったことのない俺にとって、これらの作業は新鮮だった。「天骨くんは初めてなの?こういうの。上流階級だな~(笑)俺なんか中学の時から親父にやらされてたよ~」と大久保義家館長代行。
とにかく砂利にシャベルを突っ込んで砂利がない場所に運んでいって広場全体に砂利を広げるのが目的だ。単純な作業だがある程度やっていると要領がわかってきて知らず知らず没頭している俺だった。多人数でやる連帯作業なので、現場の状況を見ながら自分の役割を自ずと見つけて何かしら作業をしなければならない。指示を待たず自分で仕事を見つけてやらなくては居場所がなくなる。どの世界でも同じなんだな~、なんて感心しながらいい汗をかいて「今日のビールはさぞ美味いだろうに」という目論見も芽生え始めていた。
途中、ダンプが誤って水道管踏み抜いて水が吹き出したりしたハプニングがありながらも作業は終わり、砂利が全体的に広がったときにはすでに16時を回っていたな。
「天骨くん、ご苦労さん、温泉入って飯食って帰ればいいよ~」と添野館長がニコニコ顔で言ってくれた。「押忍」と適度な疲労感を味わいながらも充実した顔の俺がそこにいた。
この一輪車は業界用語で『ネコ』というらしいです。大久保館長代行から教えて頂いた。
最終的に砂利を敷き詰めた!この赤い砂利は雨が降ると固まるらしい。真ん中にいるフランス支部の人たちがめちゃくちゃ働き者でした。天骨に爪の垢煎じて飲ませたほうがいいです。
この石がメインの石碑になる予定です。座禅を組む大久保代表代行とそれを見守る添野館長。
午前中は少年たちが草むしりに来ました。お昼ご飯を食べたら海に遊びに行ったな。
熊の前で3人で記念撮影。
結局その後は添野館長のお住まいのリゾートマンションで温泉につかり、ホテルのレストランで食事会、美味しい肉料理を食べながらワイン飲んで満喫。館長や弟子の人たちと色々な空手話に花が咲き、あっという間に時間は過ぎた。ワインと日本酒をかなり飲んだ俺は心地よい酔いの中に今日あった出来事を反芻しているのだった。
「天骨くん、今日はお疲れ様。今度三峰山で合宿やるから来いよ~面白いよ~」と館長。「押忍!」と俺。
帰りは大久保代表代行と共に車で東京方面まで載せていただくことになって、車の中でも酒飲んで空手談義に花が咲き、家に着いたのが11時位かな?そのまま服を脱いでベットに横たわり、今日一日あったことを漫然と想いながら眠りについたのであった。